「鬼子」

あの兄弟は鬼子だ

立って歩く

その歳の頃には、村の大人は誰も敵わなかった

野武士が村を襲っても、この村から奪えたのは

始めに子供をかばおうとした

兄弟の両親の命だけだ


親を失っても、彼らは強く生きた

五つにもなる頃には、素手で、山のどんな生き物でも狩ってこれた


旅の者だと言った

村に宿はなく、子供二人暮らすには広い家だった

でも、兄弟を恨む野武士の仲間だとは考えていなかった

熊を屠る鬼子も、致死量の毒の前には

かろうじて息をするのが精一杯だった


野武士は彼らを縛り上げ、川へ放り投げる

野武士どもは兄弟が死んだと思っていたが

鬼子の強さがまだ心に残っている

念を入れたあと

村は根絶やしにされる。




流された兄弟

一人は下流の村の老婆に拾われた

一人はそのまま海へと流された、海の底に沈んだか、鱶の餌になったか、あるいはどこかの国や島に流れ着いたのか


兄弟の一人が、老夫婦のもとで、目をさました時には

もう確かめる術も無くなっていた

目覚めた後、川を上るが、残るのは焼け落ちた村の跡


看病の礼を言うために戻った時

子供に恵まれなかった老夫婦は、帰る家を失くした幼子を

引き取る思がある事を告げる


名残雪も終わる弥生月

老夫婦の家の庭にある

桃の花が咲く頃

天から授かった子に

老夫婦が付けた名前は桃太郎


桃の絵を背負った陣羽織を纏いて

正義を示す旅に出る